歴史・特徴など
 表具は仏教伝来と共に経典の表装技術として伝わったと考えられています。以後、床の間の発生や茶道の興隆により需要が増え、江戸時代には上流社会の必需品となっていきました。
その技術は、軸装を主とし、天井・壁・画帖・屏風・襖などの装丁や修復など幅広い技能を要求されます。そしてすべてが依頼主の注文に応じて一点ずつ製作され、伝統的な色目使いを重んじた格調高い取り合わせを基調としています。
表具をする職人さんを表具師といいますが、経師といわれる場合もあります。今日では、表具師と経師は同じ仕事をさしますが、かっては別々の職業でした。経師というのは「三蔵の中の経蔵に通暁した人・経巻の書写を業とした人・経巻の表具をする人・書画の幅または屏風・襖などを表具する職人」という意味があり、仏教のお経を扱う人々の事をいっていました。
表具は平成元年に東京都から「江戸表具」として「伝統工芸品」に指定されました。
前川 治 / 作品
1 仕事場風景 仮張(裏打ちした物を乾かしています)
2 掛け軸(丸表装) 2代目 中村橋ノ助丈 「矢の根」の隈
3 3色の異なる裂を切り継しました
4 掛け軸(創作表具 通し柱) 2代目 尾上松緑丈 「勧進帳」弁慶
5 7代目松本幸四郎丈御使用の弁慶の衣装を使用しました
6 掛け軸 (茶掛け) 「松樹千年翠(ショウジュセンネンノミドリ)」
7 目出度く亀甲松の模様を使用
8 一文字は表千家のお好みの裂を使用しました
9 掛け軸(大和仕立て) 「萬歳」
0 一文字に、福寿模様の金襴を使用
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12 屏風 (利休型) 2代目 尾上松緑丈御使用楽屋屏風
13 松緑格子の浴衣地を使用しました
14 裏打ちした浴衣地を松皮菱崩しにデザインしてみました
15 掛け軸 相撲番付色紙掛け
16 御茶屋さんより頂いた番付を紫白(シハク)の裂で切り継をしてみました
名 前:前川 冶
工芸品:江戸表具
住 所:墨田区千歳3-5-11
略 歴:昭和34年生まれ


昭和52年 
弟子入り東京職業訓練校表具科入学

昭和54年 
卒業 職業訓練法による表具技能 2級資格取得

昭和59年 
表具技能 1級資格取得。

昭和61年 
壁装技能 1級資格取得 職業訓練指導員(表具科)免許取得。

昭和63年 
職業訓練指導員(インテリア科)免許取得。

平成 2年 ~現在まで 
東京都美術館にて開催の表装作品展に連続出展。

平成 8年 
第39回表装作品展にて「東京表具経師内装文化協会会長賞」受賞。

平成 9年 
第16回技能グランプリに東京代表として出場。

同 年   
第11回全国表装作品展出展。

平成14年 
第16回全国表装作品展出展

平成17年 
墨田区産業功労表彰

同 年   
優秀技能者表彰

平成18年 
すみだマイスター認定

平成28年 
第59回表装内装作品展

同 年   
東京都知事賞受賞

同 年   
東京マイスター認定

平成29年 
東京都伝統工芸士認定

同 年   
墨田区登録無形文化財(工芸技術)認定

令和元年  
厚生労働省ものづくりマイスター

令和2年  
墨田区伝統的手工芸保持者

令和3年  
厚生労働省卓越した技能者(現代の名工)



☆仕事のこだわり:まず第1にお客さんの身になって、どう仕上げたら喜んでいただけるかを考える。そして掛け軸や額等の場合は、本紙(中身)が主役なのでその雰囲気をいかに出すか又どうすれば見栄えがよいか、それに多少はヒンよく(上品に)仕立て上がるかいつもいつも執着しています。


伝えたいこと
■ 少年時代
小学校3年生の時より住み込みの職人(兄弟子)と同じ部屋で寝起きを共にし、学校から帰宅すると、貼替えの障子を洗ったり、外した襖の縁を拭いたりと、する事は沢山ありました。その手伝いが終わらぬと、遊びにいけませんでしたので、どうしたら綺麗に、早く終わらせられるかを、いつも考えていました。

時々は、1日3時間しか眠らず仕事をしている父や、妹を背負って家事と仕事の手伝いをしている母の姿を見て、もっともっと手伝わなければいけないと思いましたでも、やっぱりあそびたかったですネ。    写真:子供の頃
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■ 職人になるきっかけ
私が生まれたとき、祖父は母に向かって手を付いて「3代目を生んでくれて、ありがとう」。と言ったそうです。その祖父も、私が1歳の時に、亡くなってしまいましたので本当かどうかかくにんはできません。また、「お盆に、あの世からおじいちゃんが帰った時、店が無くなっていたら、がっかりするぞ」。と父に言われました。それを聞いたとてもまじめな私は、「これじゃあ店を継がない訳にはいかない」。そう思ったのが、8歳の時でした。
■ 職人になってから現在
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高等学校を卒業した後、2年間表具師の学校にいかせてもらいました。その学校の先生方は東京の一流の表具師の親方ばかりでした。その方々の仕事を見ると、1つの作業でもなんと色々なやり方があるものだと感心しました。又、難しい仕事の講習会があると聞くと、日本中何処でもいきました。

かつては仕事は、同業者には見せたり教えたりはしないものでした。私はいい時代に職人になれたと思います。そのおかげで、国宝や重要文化財の修理を専門になさっている親方からもいろいろおしえていただきました。もちろん1番の師匠は父ですが、この方法はよいなと思った作業方法はこっそりやる事もあります。  写真:仕事風景
■ 職人哲学
表具師の業界では、80歳を越えて「現代の名工」の指定を受けられた親方が、90歳を過ぎて、今尚、現役でお仕事をされています。40歳を過ぎたばかりの私など、「小僧さん」から「若手職人」になったばかり。これから「中堅」「ベテラン」となっていくつもりです。ですから、私が、どうのこうの言っても、「何を言ってやがる」。と笑われてしまうと思うんです。だから今は、「未だ解からず」としておきます。かっこつけすぎかな。
■ 私の目標・夢
月並みですがいろんな意味でいい仕事をし、先人より賜った技術、作品を改良努力して後世、次世代に残す。そして、「昭和、平成の職人は、馬鹿な事をしやがったな」と未来の職人に言われないようにしたいと思います。  写真:家族一緒に
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■ 連絡先
氏 名:前川 治
住 所:墨田区千歳3-5-11(店舗)
電 話:03-3631-0508
FAX:03-3631-0738
メール:hyougusi@jcom.home.ne.jp